前田薬品工業株式会社 代表取締役 前田大介

美と健康の村づくりへの道のり

施設名と御社について改めて教えていただけますか?

前田さん:前田薬品工業の代表取締役社長を務めております、前田 大介です。
今回皆さんが来てくださったのは「Healthian-wood」という場所です。
美と健康の複合施設として注目されている一方で、私はここを拠点に村の再生に取り組んでいます。
健康や美しさ、そしてそのような生活を求めて人々が訪れる村を作り上げていくことを目指しています。


限界集落での新たなスタート

このようなプロジェクトに取り組もうと思ったきっかけは何ですか?

前田さん:実は最初から村づくりを意図していたわけではないんです。
限界集落に飛び込んだというより、気がつけばそうなっていた。というのが正直なところですね。
私が社長に就任したのは11年前ですが、当時は社内でデータ改ざん問題が発覚し、行政処分を受け、経営は危機に瀕しました。
取引先や従業員の離職が相次ぎ、会社の未来も危うい状態でしたね。

その状況下で、経営を引き継ぎ、必死に立て直していたのですが、ある日、体調を崩し、起き上がれなくなってしまったんです。
何度も病院で検査しても異常は見つからず、なにをしても不調は治らなかったんです。
そんな中、ハーブティーとアロマの香りと出会ったんですよね。その出会いがきっかけで、体が楽になったんですよ。

ハーブとアロマとの出会い

そこからハーブやアロマへの関心が生まれたということですか?

前田さん:そうです。アロマの香りとハーブティーで体が楽になるという経験をしたことが大きな転機でした。
それまでハーブや香りに興味はなかったのですが、この出会いをきっかけに、人の体や心に大きな影響を与える可能性があると考え、調べ始めました。
すると、アロマオイルがヨーロッパでは医薬品として認証を受けていること、そして近代医療のルーツは薬草であることを知り、私たちの製薬会社で、健康と美容に役立つアロマやハーブ製品を作れないかと考えるようになったんです。
こうして自分たちでハーブを育て、アロマオイルを抽出する工房を建てようと考え、この地を選びました。そこが全ての始まりです。

直感を信じた行動力と自己顕示欲

なぜそこまで強い行動力を持ってここまで進められたのでしょうか?

前田さん:僕は考える前に動くタイプなんですよね(笑)。
いわゆるPDCAサイクルでいうと、僕のやり方はPlanをあまり深く考えず、Do、Check、そしてActionではなく”Adjust”で進める感じです。それに、自分が助けられたハーブや香りが、製薬会社としても意義あるものだと感じた瞬間、あとは突き進むだけでした。

実は、若い頃は自己顕示欲がかなり強かったと思います。「誰もやっていないことを成し遂げたい、世間を驚かせたい」という気持ちがあって。良いのか悪いのか、今はそういった気持ちはあまりなくなりましたが(笑)
でも、当時から変わらず「日本で唯一か、世界で唯一か」という基準で事業を展開しています。
そのこだわりが、今の取り組みの原動力でもありますね。

富山から世界へ、地域への想い

富山に対する思い入れもおありのようですね。

前田さん:はい、富山には魅力的なものがたくさんあると感じています。
富山で事業を続けながら、地域の宝物を世界に届けたいという思いが強くあります。
世間では「富山には何もない」と言われがちですが、私はそうは思っていません。
富山をもっと魅力的な場所にして、多くの人にその良さを伝えたいんです。

隈研吾氏との共創で実現したデザイン

隈研吾さんとの協力についてもお聞きしたいです。村づくりにおいて、隈さんとの連携はいかがでしたか?

前田さん:隈さんとはこの場所づくりに関わっていただき、建築素材や方式にも独自のアプローチを取り入れてもらいました。
日本では通常、田んぼの真ん中に建物を建てることはできませんが、あらゆる法規制をクリアして実現したものです。
隈さんの考えと私の考えには共通点が多く、非常に親和性が高いと感じました。施設を通して、あるべき暮らしの形や素材の使い方を発信していければと思っています。

隈 研吾(くま けんご)は、日本の建築家(一級建築士)株式会社隈研吾建築都市設計事務所主宰。東京大学特別教授。

自然と調和した施設づくり

この村の特徴や今後の構想についても教えていただけますか?

前田さん:この場所は村づくりの途中景色であり、20年後には300世帯、1000人の村にするという構想があります。
できるだけコンクリートやアスファルトを避け、農地を守ることを大切にしています。テーブルや壁の素材も地域の方々から取り寄せて活用しているんです。村づくりの過程として、地元の人たちが育てた素材を使うことにもこだわっていまね。

取材後記

このインタビューを通して、前田社長の行動力と富山に対する熱い思いが伝わってきました。
彼が手がける「Healthian-wood」は、単なる複合施設を超え、地域の未来を描く大きなプロジェクトの一部として進んでいるのではないでしょうか。

ライター:長谷川 泰我