全部、自分たちでやる。クラブづくりの最初から最後まで
カムイワークスジャパンについて教えてください
生田さん:うちは1973年創業で、今年でもう53年目になります。
僕が入ったのは先代の社長の時代で、もうかれこれずっとこの会社にいますね。
入った当初は、富山の工場に13人ぐらい職人がいて。
溶接、研磨、塗装、組み立てまで、クラブづくりの全部の工程を自社でやってました。
僕自身も、入社してからの10年ぐらいは、職人として現場で技術を身につけていって。
ドライバーからアイアンまで、一通りの製作工程を全部経験してきました。
今も基本的にはそのスタイルを続けていて「塗って」「削って」「組んで」最初から最後まで自社で完結できる。
だから、何かあったときにも自分たちで修理やカスタム対応ができるし、現場を知ってる人間が直接お客さんと向き合える。
それが、うちの強みになってると思います。
今やってる主力のブランドは、「REX & REGINA(レックスアンドレジーナ)」っていうシリーズです。
これは地クラブメーカーとしては珍しく、ドライバーからパターまで全部揃ったフルセットのブランドで展開しています。
アイアンやウェッジ、パターも含めて、自社で丁寧につくってます。
ここまでやるのは「全部自分たちでやる」という姿勢が強くあるからこそだと思ってます。
クラブって、ただの“モノ”じゃなくて、使う人にとっての“相棒”みたいな存在になるんですよね。
だからこそ、うちはこれからも、一本一本しっかり作り続けていきたいと思ってます
“飛べばいい”から“自分の一本”へ
カムイさんのクラブの特徴について教えてください
生田さん:僕らみたいなメーカーって、よく“地クラブ”って呼ばれるんですよね。
なんて言うか、地ビールとか地元のお酒みたいな感じ。
大量生産じゃなくて、職人が手をかけて、こだわって作る、そんなクラブです。
昔はとくに“飛距離特化”っていうか、とにかく「飛べばええやろ」っていうクラブが多かったんですよ。
大手メーカーが平均点を狙ってくる中で、うちら地クラブメーカーは一点突破型。
「曲がってもいいから、とにかく飛ぶやつを」っていうニーズに応えるクラブを出してました。
でも、2008年ぐらいに反発係数の規制が入って、どのメーカーも同じ基準の中でしか作れなくなって。
そこからは、ただ飛ぶだけじゃ売れない時代になってきた。
大手は次々と新製品を出して、値段もガンガン下げてくる。
10万円で出したクラブが、年末には半額以下になってたりとか。
うちはそうじゃなくて、一本を長く使ってもらえるクラブを作ってる。
塗装も研磨も自社でやってるんで、修理もできるし、何かあったときの対応も全部うちでできる。
それに、カラーも選べるし、ネームも入れられるし、メッキの種類も変えられる。
「他の誰とも被らない一本をつくる」っていう楽しさがあるんですよね。
実際、利用者さんがゴルフ場に行くと「これどこの?」ってキャディさんや同伴者に聞かれることが多いみたいです。
それって、所有感というか「自分だけのクラブを持ってる」っていう満足感に繋がってると思うんですよ。
それに加えて、全国の腕のいいフィッティング工房さんにも、うちのヘッドパーツを卸してて。
そういう工房だと、重さ、長さ、硬さ、しなりの方向まで、プロ並みに細かく調整してくれるんです。
僕、野球もやってたんですけど、バットとかグローブのオーダーって、だいたい10項目ぐらいなんですよ。
でもゴルフのクラブは、シャフトメーカーも山ほどあるし、ヘッドのスペックも無限にある。
ほんと、沼です(笑)。
でもそうやって際限なくこだわれるからこそ、僕らみたいなメーカーの存在価値がある。
「こだわりたい人」にしっかり応える。
それが、地クラブメーカーとしてのうちの立ち位置だと思ってます。
尖り続ける姿勢と、富山だからできたものづくり
大切にされている事について教えてください
生田さん:僕らの仕事って、やっぱり“尖ってる”ことが大事だと思ってるんですよ。
大手のメーカーがやらないようなこと、みんなが丸いの出してきたら、うちは四角を出してみようか、とか。
そういう「誰もやってないことを形にする」っていうのが、僕らの仕事の面白さでもあるし、意義でもあるんじゃないかなって思ってます。
大手さんって基本、自社でライン組んで自社工場で作っちゃうんで関わらないですが、地クラブメーカー同士とか、同業種からのOEMの依頼は多いです。
うちは自社で検品・修正ができるから、間に入ることで“品質の担保”ができるんですよ。
うちを通せば、ある程度まではもう安心、っていう信頼があるんじゃないかなと思ってます。
あとは、富山ってものづくりの土壌がすごくいいんですよ。
県の工業試験場、正式には「生活工学研究所」ってところなんですけど、そこにスイングロボットがあるんです。
ヘッドスピードを設定して、毎回まったく同じ場所にボールを当てる。
そこから得られるデータって、すごく貴重なんですよね。
大手は自社にそういうテストフィールドを持ってたりしますけど、地クラブメーカーではなかなか難しい。
でも富山なら、県内企業は割引で使えたりして、ほんと環境的に恵まれてるなって思います。
実際、県外のメーカーがそれ目当てで宿泊して使いに来るぐらいで。
僕らは「空いてますか?」「じゃあ行きます」で、すぐ試験ができるんです。
何か新しい素材を試したいとか、耐久性を測りたいときも、すぐ相談できる。
「この硬さの測定にはこの機械が向いてますよ」とか、アドバイスもしてくれるし、数字で比較できるのが強いです。
プロ野球のボールの反発テストもできるぐらいの施設で、野球のバットもゴルフのクラブも同じ場所でテストできるんです。
そういうのが近くにあって、行政との連携もしやすい。
だからこそ僕らも「他とは違うこと」に挑戦できる。
尖ったものをちゃんと形にして、データで裏付けして、納得いくまでやる。
その姿勢を大事にしたいし、それが“富山のものづくり”の強さでもあると思ってます。
職人の背中を見て、任されたその日から
この業界を目指した背景について教えてください
生田さん:僕が入社したのは、創業から25年ぐらい経った頃です。
当時はちょうど業界も会社も、少し落ち着いた時期に入ってきたって感じでしたね。
最初はまったく別業界、半導体の会社に勤めてたんです。
社員が500人ぐらいいるような会社でした。
そこでゴルフと出会ったのがきっかけで。野球やってたから、「ゴルフも簡単やろ」って思って始めたら、思ったより難しくて、それでハマったんです。
で、たまたま半導体の工場が閉鎖されることになって、希望退職を募集されて。
一緒に辞める先輩に「生田、ゴルフ好きやろ? こんな求人出てるぞ」って言われて、面白そうだなと。
面接に行って「じゃあ来週から来てくれる?」みたいな感覚で入社が決まりました(笑)。
ものづくり自体は嫌いじゃなかったし、練習場に行ったときに、自分が作ってるクラブを誰かが使ってくれてたら…って想像すると、なんか、ちょっと憧れましたしね。
打ちっぱなしとかでも「めっちゃ飛ぶこれ、買ってよかった」みたいな声を聞いたときに
「もし自分が作ったクラブでそう言ってもらえたら、これは面白いかもな」って思ったんです。
そこからは必死で覚えていきました。
材料のこと、構造のこと、設計のこと……全部。
あるとき、前のモデルがちょっと売れなかったタイミングがあって「次どうする?」ってなったときに、僕がデザインしたドライバーを先代の社長に提案したんです。
そしたら「これで行ってみようか」って採用されて、それがヒットして。
輸出もできたし、国内でも売れて、大手販売店にも並んだ。
その一本で5年くらい食えたっていうのは、ほんとに嬉しかったですね。
受け継いだ背中、託された役割
すごい才能だったんですね
生田さん:いやいや、、、
僕の成長に大きな影響を与えてくれたのは、やっぱり当時の工場長の存在ですね。
創業者の社長ももちろん職人なんですけど、いわゆる“昔ながらの頑固親父”って感じで。
教えるっていうよりは「見て覚えろ」でも、隠すことは一切ない。
設計も試作も、全部みんなの前でやるんです。だから、学びたいと思えば、いくらでも吸収できる環境でした。
その中で、工場長はもう少し“言葉で伝えてくれる人”で。
「俺はこういう考えでやってるよ」「創業者とは違うけど、こういうやり方もあるよ」って、折にふれて教えてくれました。
感覚と理屈、両方のバランスを学ばせてもらったって感じです。
あの人がいなかったら、今の自分はなかったかもしれません。
その後、その工場長が独立されて、ポジションが空いたときには、僕もだいぶ製造のことがわかるようになっていて。
営業にも出てましたし、社内の流れも把握できていた。
そんなときに「生田、工場長やってくれないか」って言われて「はい、やります」って。
正直、そのときもそんなに気負ってなかったですね。
今も肩書きは工場長ですけど、人数も限られてるんで、製造も営業も兼任です。
現場でお客さんから聞いた声を、また製品づくりに反映させる——そういう循環を大事にしてます。
それに、経営体制もずいぶん変わりました。
先代のときは「売れたら次を考える」っていう方針だったんですが、
今の経営陣は「目指す売上から逆算して、必要なことを前倒しでやろう」っていう考え方。
「設備入れたいなら、入れよう。作ろう。売ろう」って、ちゃんと背中を押してくれるんです。
僕も「じゃあやってみます」って、素直に言える環境。
そんな風に“挑戦しやすい空気”があると思います。
昔の良さをちゃんと引き継ぎながら、新しいやり方で攻めていけるのが、今のカムイワークスジャパンの面白さですね。
いつか“メイド・イン・富山”のクラブを
富山でやってみたい事ってありますか?
生田さん:富山の企業だけでクラブをつくりたいですね。
前は高岡の研磨屋さんに出してた時期もあったけど、ちょうど職人の親父さんが辞めたタイミングで
後任の社長からは「もううちではやりません」ってピシャリと言われちゃって。
クラブの研磨って職人のクセが出るから、やっぱり経験ある人じゃないと難しい。
後継がいなかったら、そこで技術が途切れてしまうんですよね。
でも、うちって昔は生粋の“職人の会社”だったんで、他の会社からは「ちょっと厳しそうだな」って見られてたところもあるかもしれません。先代の社長、ほんとに職人気質で。
「こんなんじゃ金は払えん!」って言って、職人さんにガツンと言ってた姿も何度も見てきましたし。
そういう背中を見て「俺にはできん」って後継者も、きっといたんだろうなと思います。
でも、本当は、富山でもっとモノづくりができたらいいなって、ずっと思ってます。
たとえば、オリジナルのゴルフグリップとか。
消耗品だからこそ、クラブほどのハードルがなくて、挑戦しやすい領域でもある。
最近はグリップメーカーも増えてきてて、カラー展開とか機能性もどんどん多様になってる。
富山って金型とか樹脂成形の技術があるから、絶対可能性あると思うんですよね。
僕も「富山で作ったグリップがあれば採用したいし、OEMでもお願いしたい」って、本気で思ってます。
せっかく富山には工業試験場もあるし、大学との連携もできる。
県内の企業が力を持ち寄って、ひとつの製品を生み出す——そんな“メイド・イン・富山”のクラブができたら、めちゃくちゃ胸が熱いですよね。
実はその話、工業試験場の先生ともしたことあるんです。
「富山の企業で、何か一つモノづくりをやれたらいいよね」って。
時代は変わってる。僕らはもっと“ひらかれたモノづくり”をやっていきたい。
そのためにも、富山で何か一つ、ちゃんと形にしていきたいですね。
ゴルフ業界の未来に、カムイの役割を
今後の展望を教えてください
生田さん:今うちは、ドライバーからパターまで一通りのギアは作れるようになりました。
でも、それだけじゃ足りないなと思ってて。
これから先は「ゴルフ業界の裾野を広げること」にも、力を入れていきたいんです。
特に考えてるのは、ジュニアゴルファーへの支援です。
富山県って、ゴルフを始めるきっかけが本当に少ないんですよ。
子どもたちが「ちょっとやってみようかな」って思える場がないし、親御さんも「どこで始めればいいの?」って感じになっちゃう。
それで今、僕が注目してるのが「スナッグゴルフ」っていう競技です。
マジックテープ付きのボールを打って、的に当てる。
子どもでも安心して遊べるし、道具もおもちゃ感覚で始められる。
湘南の方では協会もできてて、イベントにも使われてるんです。
本当は、今年4月のうちのコンペでもスナッグゴルフを導入する予定だったんです。
ただ、天気が悪くて中止になっちゃって……それが今、すごく心残りなんですよね。
でも諦めたわけじゃなくて、またタイミングを見て、ぜひやりたいと思ってます。
実際、去年のイベントでゴルフ場を貸し切った時、親子連れのジュニアゴルファーが3組も来てくれたんですよ。
1日限りのイベントで、それだけ集まるってことは「潜在的なニーズ」は絶対にあるって確信しました。
それに応えるために、ジュニア向けのギアも作りたいんです。
成長に合わせて長さや重さを調整できて、コストも抑えられるような。
「始めたいけど、高くて手が出ない」っていう子どもたちに、ちゃんと届くようなクラブを作れたらと。
あとは、ゴルフ場のあり方ももっと柔軟になっていってほしいなと思ってます。
例えば、完全セルフプレーのゴルフ場。
今でも栃木なんかでは、予約もネットだけ、キャディもなしで、5〜6千円でプレイできる場所があるんです。
地方にもそういう選択肢がもっと増えたら、20代、30代でも気軽にプレイできる。
「一日中遊んで5000円なら、やってみようか」ってなると思うんですよね。
あと、若い人たちの入り口として、アパレルとかYouTubeの発信も増えてきてるじゃないですか。
そこから入ってくる人たちに、実際にプレーできる環境を用意してあげたい。
昔みたいに「ドレスコード」とか「ギアを全部そろえてから」じゃないと始められない……みたいな壁は、やっぱり壊していかないといけない。
実は昔、婦中のショッピングセンター近くに3000円くらいで回れるショートコースがあって、僕も最初はそこから始めたんですよ。
作業着でも入れたし、気軽だった。
今そういう場所がほとんどなくなってるのが、残念でならないですね。
ゴルフって、親・子・孫、3世代で楽しめる珍しいスポーツなんですよ。
その中で、僕らのギアが選ばれたら嬉しいし、
もし「ゴルフやってみたい」って子どもに手渡された一本が、うちのクラブだったら……それだけでもう、この仕事やってて良かったなって思えるんです。
若いうちこそ、フルスイングで
最後に、若手世代へのメッセージをお願いします
生田さん:僕らはゴルフクラブを作ってるメーカーですが、ゴルフって実は、年齢層がすごく広いスポーツなんですよね。
だから、僕たち自身は「まだ若い方」だと思ってたけど、気づけばもう中堅。
となると、やっぱりもっと若い世代の声を聞きたいって、素直に思うんです。
言いたいことがあっても「言ってもムダかな」とか「どうせ変わらないし」って思ってしまいがちなのかもしれません。
でも、思い切って言ってみることで、世界が変わることって本当にあるんですよ。
こっちは「その声を聞きたい」って思ってるし、
僕らのような“中堅どころ”が、経験をもとにアドバイスしたり、誰かを紹介したり、背中を押したりできることもあると思ってます。
だから、もっと遠慮なくフルスイングしてほしい。
若いうちは、グリーンを狙うより空を狙え。
チーピンが出たって、OBに打ち込んだって、スコアより大事な“経験”をくれるって思うんです。
むしろ、思いきってティーショットを打てるのは、若さという武器があるからこそです。
僕が今フルスイングしたら「生田さん大丈夫ですか?」って言われちゃう(笑)
でも若いうちなら、やり直しはいくらでもきく。
体力もあるし、時間もある。
だからこそ、その特権を、ぜひ思いっきり使ってほしいなと思います。
僕らはいつでも門を開いています。
「こんなことやってみたい」「こんなもの作ってみたい」——
そういう声があれば、ぜひ聞かせてください。
ライター:長谷川 泰我