株式会社ウェルビーイング・プロ 取締役副社長 許 鳳浩 様

研究で終わらず、社会に還元する志

事業内容と創業の背景を教えてください

許さん:企業向けに健康経営のサポートを行い、従業員の健康管理を支援しています。
健康経営とは、企業が従業員の健康を守り、生産性向上や離職率の低下につなげる取り組みですが、特に中小企業では「何をすればいいのかわからない」という課題を抱えている事が多いです。
そこで、私たちは健康診断のデータを活用し、企業ごとに適した健康プログラムを提案しているんですよ。

私自身、1999年から富山の国際伝統医学センターで伝統医学の科学的検証を行ってきました。西洋医学とは異なる伝承医学の要素を科学的に解明することが目的で、循環器系や自律神経、脳波の測定を通じて、これらの健康法が実際にどのような影響を及ぼすのかを研究してきました。
その研究成果は富山大学や金沢大学にも引き継がれ、私たちも少しずつ論文発表を行いながら知見を蓄積してきました。
しかし、研究成果を発表するだけでは十分ではないと考えるようになったんですよね。
健康に関する知識や方法を、論文の中に留めるのではなく、実際に社会に還元し、より多くの人の役に立てる形にすべきではないか。
そうした思いから、ウェルビーイングプロを立ち上げました。

私たちの強みは、科学的な視点に基づいた健康サポートだけでなく、それを「実際に使える形」にすることにありますね。
健康食品の開発や健康プログラムの提供を通じて、企業や個人がより実践しやすい形で健康を管理できるような支援です。
具体的には60の質問を基に5段階評価を行い、そのデータをもとに季節ごとの健康管理を提案することで、個々に最適なアプローチを提供します。
これは、会社全体のパフォーマンスが向上し、結果的に企業の成長にもつながると考えていますね。

「研究は研究で終わってしまっては意味がない。実際に必要としている人のもとへ届けることが大切だ。」
この思いが、ウェルビーイングプロの根幹にあります。
定年を迎えた今、第2の人生として、この事業に全力を注ぎ、より多くの人に健康を届けていきたいと考えています。

見識を広げ、多角的な視点を持つ

地域の発展のためには何が必要でしょうか?

許さん:私には東京に住む二人の息子がいます。上の子は都会の色にすっかり染まっていますが(笑)
下の子は富山に戻るかどうか迷っている様子です。農業に興味があるようなことも言いますが、それが本心なのか、親を喜ばせるための言葉なのかは分かりません。
多くの若者がそうであるように、都会の華やかさや可能性に惹かれるのも理解できます。私自身もかつて中国から日本に来たのは、日本の華やかさに魅力を感じたからでした。

しかし、実際に住んでみると、すべてが理想通りとは限らないことに気づくんですよね。
都会には都会の良さがある一方で、地方には地方にしかない価値がある。
富山の良さを伝え、若者にとって魅力ある場所にするためには、単に「都会にはない素朴さがある」だけでは不十分です。
具体的に何が誇れるのかを明確にする必要があります。

たとえば、都会では規格化された食品が流通の効率を優先して販売されます。
“まっすぐなきゅうり”や“見た目の整った野菜”ばかりが店頭に並び、栄養価や味の濃さといった本来の良さは二の次になっていると言われています。
対照的に、富山では地場もん市場のような場所で、農家が直接持ち込んだ野菜を購入することができます。私自身、スーパーでは野菜を買わず、すべてそこで調達しています。
見た目は悪くても味がしっかりしていて、栄養価も高い。これは単なる食の話ではなく「何を価値とするのか」という本質的な話題だと考えています。

現代の資本主義市場経済では、多くの人が流通や経済の仕組みに流され、商品を選んでいるようでいて、実は選ばされている状態になっているのではないでしょうか。
「本当に自分にとって価値のあるものを見極めているのか?」
そして、人々はそれを「良いもの」として受け入れています。
でも、そうした環境に流されているだけでは、自分自身が何を本当に求めているのかを見失ってしまうのではないかと思うのです。

なので、ただ既存の価値観に従うのではなく、実際に自分の目で世界を見て、異なる生き方に触れることが大切です。そのためには、外国へ行ってみることも1つの手段です。
異なる文化を知ることで、地域の良さや課題が見えてきますし、自分の考え方も変わるはずです。
そして地域社会や人々が不変の価値をアピールしていく。

それぞれの人がそこから何を選び、どう活かすのかを考えることが、地域経済の発展につながるのではないかと思います。

富山から全国へ、地方発の健康イノベーション企業

許さんから見た社会の課題はどういったものでしょうか?

許さん:人の健康だけでなく、社会の健康、そして地球の健康まで視野に入れて取り組んでいます。
人間は社会の一部として生きており、社会が健康でなければ個人の健康も成り立ちません。例えば、職場環境や地域の活性化が整っていないと、どれだけ個人が努力しても本当の健康や幸福を得ることは難しいのです。
だからこそ、私たちは社会づくりやルール作りを含めて、健康の概念を広く捉える必要があると考えています。

また、最近の日本では、控えめな性格の方が増えているのではないでしょうか。しかし、世界では競争が激化しており、遠慮していては生き残れません。
スポーツと同じで、自分自身が努力し、戦い抜く力を持つことが求められます。だからこそ、体の健康だけでなく、メンタルの強化も必要であり、それを支援するための教育や環境作りも重要だと考えています。

さらに、私たちは地方から健康の価値を発信し、全国へと広めていくことを目指しています。
一般的には都会から地方へと価値が流れる傾向がありますが、私たちは逆に、富山から都会へと健康の新しい概念を広めていく戦略を取っています。
富山は、薬都としての歴史を持ち、健康への意識が高い地域です。その特性を生かし、地方発の健康イノベーションを実現していくことが、私たちの使命の一つです。

ウェルビーイングな世界を目指して

大切にしている価値観について教えてください

許さん:私たちは、健康に関わる仕事をする中で、個人差の大きさを痛感しています。
Aさんにとって良いものが、Bさんには必ずしも良いとは限らない。健康においては、万人に適した唯一の正解は存在しないのです。

だからこそ、私たちが大切にしているのは、提案する側が「両方の視点を持つ」ということ。知識を蓄えることはもちろん、自分自身のメンタルやコンディションを整えて、フラットな視点で向き合うことが求められます。
中国医学では脈診をする際に「脈を見る側のコンディションが乱れていると、正確に判断できない」と言われています。
たとえば、呼吸が乱れていると脈のリズムを正確に捉えられないように、私たちも自分自身の心の状態を一定に保つことで、より適切な判断ができるのです。

私たちは、単に健康に関する知識を提供するだけでなく、その知識をどう生かすか、どう伝えるかにもこだわっています。
どのような環境でも、相手の価値観を理解しながら最善の選択肢を示せるよう、日々研鑽を積んでいます。そして「研究を社会に還元する」ことを最も大切にしています。
学術研究を積み上げるだけでなく、それを活かして実際に人々の生活を改善することこそが、私たちの目指すべき方向です。

また、健康とは日々の食事、運動、メンタルヘルス、ライフスタイルのすべてが関わっています。
だからこそ、私たちは単なる健康情報の提供ではなく、実際に行動に移せるプログラムの開発に力を入れ、ウェルビーイングな世の中の実現を目指していますね。

健全な経済の循環をもたらす企業として

今後の展望を教えてください

許さん:私たちは決してボランティアで事業を行おうとは考えていません。なぜなら、経済的に積み上げた実績こそが、社会に認められている証であり、それが事業の持続性につながると考えているからです。
私たちが行う取り組みが社会に求められているのであれば、その対価としての経済的な成果が伴うのは当然のことであり、それによってさらに多くの人へ貢献できる機会が広がるのです。

とはいえ、お金だけを追い求めるつもりはありません。利益を生むことは重要ですが、それが目的ではなく、あくまで手段であるべきだと考えています。
正しいことをし続け、その結果として社会が私たちの活動に価値を見出し、対価としてお金が循環する。そうした健全な経済の流れを作ることが、私たちの今後の展望です。

また、私は日本に来て、多くの素晴らしい人々との出会いに恵まれました。
その経験が私の人生を大きく変えたように、今度は私たちが社会に恩返しする番だと考えています。富山大学や金沢大学での研究、そして富山という地域に根ざした活動を続けていくことで、より多くの人々の健康と幸せに貢献したい。
そうした思いで、事業のさらなる発展を目指していきます。

そして、富山県内の中小企業を中心に、健康経営の取り組みをさらに拡大していきます。
企業が従業員の健康状態を数値で把握し、それに基づいて改善策を講じる仕組みを構築し、健康を「測る」「理解する」「実践する」というサイクルを確立することで、企業全体の生産性向上つなげていきたいと考えています。

現代西洋医学と伝統医学の融合をさらに推し進め、新たな健康プログラムの開発にも力を入れていきたいですね。

多角的な視野で未来を切り開く

若い世代へのメッセージをお願いします

許さん:私は、これからの若者にはもっと外の世界を見てほしいと考えています。
海外に出て、異なる文化や価値観に触れることで、日本の良さや改善すべき点がより明確に見えてきます。それが、これからの時代を生き抜く力につながると信じています。

また、情報が氾濫する時代だからこそ、考える力を大切にしてほしい。
見識を広げて何を信じ、何を学び、どう行動するかを主体的に決めることが、未来を切り拓く力になるためです。

私たちは、健康を支えるだけでなく、未来を切り拓く若者の成長も応援しています。

ライター:長谷川 泰我