排水処理の“リンスインシャンプー”をつくる会社
ネクストリーのお仕事について教えてください
藤井さん:一言で言うと「工場から出る排水を処理するための薬品や機械装置を販売・開発している会社」です。
排水処理といっても、いわゆる下水道の工事とか配管清掃ではなくて、「工場で使った汚れた水を、川や下水に流せるレベルまで浄化するための技術」を提供していますね。
たとえば食品工場や金属加工の現場では、製造過程で水を大量に使うんですけど、そのまま排水すると環境基準を超え環境汚染に繋がってしまう。
そこで、処理が必要になります。
うちでは、その処理に使う「薬品」や「装置」を工場に合わせて提供しています。
よく例え話として使うんですけど、うちの製品は「リンスインシャンプー」みたいなもんです。
本来、排水処理って薬品を4~5種類くらい組み合わせて使うんですよ。
大規模な工場なら処理装置が自動化されてるんで問題ないんですが、うちがメインでターゲットにしてるのは、1日10トン以下の排水しか出ないような、小規模の事業者さん。
そういった規模だと、処理も手作業でやっているところが多いし、複雑な工程を毎日やるのは正直大変です。
だから、あらかじめ必要な薬品を独自配合で1つにまとめて「これ1本で処理が完了する」という製品を開発したんです。
今はその薬品の処方が30種類ほどあって、それぞれの現場の排水に合わせて最適なものを提案しています。
これは代理店ではなく、完全にうちのオリジナル製品。
元々は社内で製造もしてましたが、量が増えてきたので今は製造は外注に、うちは研究と開発に注力してます。
日本全国、北海道から沖縄まで、小規模な工場を中心に導入が進んでいて、ありがたいことに毎月新規の問い合わせも多くいただいてます。
排水処理ってニッチな業界だけど、誰かがやらなきゃいけない仕事。
そこに“使いやすさ”や“現場目線”を加えて、少しでもこの業界の発展に携われたらと思っています。
製品の誕生と、代表就任の背景 ― 成り行きの中で引き受けた“本気”
どのようにしてこの商品が生まれたのですか?
藤井さん:ネクストリーの主力製品である排水処理薬剤。
これは、僕が開発したというよりも、前任の社長が築いた関係性とご縁の中から生まれたものなんです。
前任の社長が、今でもお付き合いのある長野の会社から“ベースとなるレシピ”を2種類だけ譲ってもらったところから、この製品の歴史は始まりました。
そこから僕たちは、全国の工場から実際の排水サンプルを集めてきて「この水にはどういう処理が最適か?」を試行錯誤する日々を重ねました。
薬品の配合を変えたり、中に入れる薬品自体を変えたりしながら、地道にレシピを増やしていって。
今では30種類近い“処理レシピ”があって、現場ごとに最適な組み合わせを提供しています。
いわば、現場からの学びと試行錯誤が、今のネクストリーの製品力をつくってきたとも言えますね。
僕が代表になったのは13年前、ちょうど31歳の時です。
30歳で富山に来て、その翌年に社長を引き継ぐという、我ながらスピード感ある転機でした。
でも、正直言って最初は“成り行き”だったんですよね。
人生って、思った通りにはいかない。
よっぽどやりたいことがある人は別として、僕自身はこの業界に強い憧れを持っていたわけではありませんでした。
ただ、任されたからには向き合わなきゃならないと思ったし、それまでの自分の人生とも向き合わなきゃいけないタイミングだったんです。
僕は小3からずっとバスケをやってきて、国体に出て、大学も推薦で進んで、社会人では実業団(今でいうBリーグ2部相当)で3年間プレーさせてもらっていました。
バスケの世界では「そこそこできるやつ」で通ってきたんですけど、27歳でバスケをやめてからは、なかなか仕事で結果が出せなくて。
正直、焦りもありました。
そんな中、前任社長と創業メンバーの間で軋轢が生まれて、会社自体を辞めるか辞めないかの瀬戸際に立ったんですよね。
その時に仕事で思うように結果を出せていない自分に対して「このまま中途半端で終わっていいのか?」って自問したんです。
社内が「このままではいけない」という雰囲気が強まってきたタイミングで、代表就任の話が出て。
自分がこの会社を“残る会社”に変えられたら、自分の人生ももう一歩前に進めるんじゃないかと。
だから、最後は「今度こそ中途半端に終わらせない。」そんな想いで引き受けた部分が大きかったですね。
“1旗あげるぞ”って気持ちで。
13年前、31歳の自分は、そうやって覚悟を決めました。
転機と挫折 ― “売上3300円”から始まったゼロイチの現実
創業メンバーの一人で、代表は別の方だったんですね
藤井さん:そうですね。大学を卒業した後、僕は2年間、教員をしていました。担当は保健体育。
最初は高校で、次は養護学校。
当時はおむつの交換や食事介助、若い自分には「なんで俺がこんなことを…」と思う瞬間もありましたね。
でも、最後には彼らが本当に愛おしくなって、卒業の時は、まるで我が子を送り出すような気持ちだったことを、今でもよく覚えています。
その後は実業団でバスケをしながら、東京へ行き、いろんな知人の会社を手伝ったりもしていました。
そんな中、大学時代からの知人・石橋から「富山に来い」と声をかけられたんです。場所は金沢駅前の居酒屋。
「イエスと言うまで返さない」くらいの勢いで口説かれて(笑)
気づけば富山へ。これが今の人生の、大きな分岐点でした。
ただ、富山に来てからが、いばらの道でした。
会社は売上ゼロ。前任の社長が「大きな案件が来るから」と言って動いていた1年間で、実際に出た売上はたったの3300円。
冗談じゃなく、本当にそれだけだったんです。僕も石橋も、この業界の経験はゼロ。
知識も、顧客も、ノウハウも、なにもない。ゼロからのスタートでした。
テレアポもひたすらやりました。営業なんて初めてだったけど、もう関係なかったですね。正直、しんどかったですよ。
だから、かなり無理やりテンション上げて電話かけたりもしてました(笑)
最初の頃は、僕と石橋の2人だけの営業部隊。
会社全体でも4人しかいなくて、途中で前任の社長が抜けてからも厳しい時期が続きました。
でも、少しずつ積み上げてきた案件が、じわじわと売上になってきて。
排水処理ってストック型のビジネスなんですよね。1回導入されると、継続的に薬品が使われるから、大きくはないけど確実に売上が積み上がっていく。
ネクストリーとして立ち上げた最初の5年くらいは、本当に苦しい毎日でした。
だけど、その5年を乗り越えたからこそ、今があります。
やっている人だけが語れる世界がある ― 行動すること、それがすべて
大切にされている価値観を教えてください
藤井さん:「人生は思った通りにはならないが、やった通りにはなる」
これは、最近僕が良いなと思った言葉です。思い通りにはいかない。でも、動き続けていれば、必ず目的地に辿り着く。そう信じています。
今の仕事に強い志を持って入ったわけじゃないし、業界にもともと詳しかったわけでもない。
むしろ“ゼロからのスタート”で、ここまでやってきました。でもその中で、1つだけずっと大事にしている価値観があります。
それは「知ってる・できる・やってる」の違いです。
世の中には「それ知ってるよ」「できるよ」と言う人がたくさんいます。
でも、実際に“やってる人”って、本当に少ない。困っている時に「それはやめといた方がいいよ」と止めるのは、やってない人たち。
でも、実際にやっている人は、「こうすればうまくいくかも」と前向きにアドバイスをくれる。
だから僕は、常に“やってる側”にいたい。
知識やスキルがあることよりも、「自分が本当に手を動かしているか」「最前線にいるか」が、何より大事だと思っています。
その価値観の延長で、僕は今も資格の勉強を続けています。
昨年は施1級管工事施工管理技士を取得しましたし、今年は公害防止管理者の水質1種の資格に挑戦しています。
自分で学び、現場に出て、経験を積む。その繰り返しの中で、自分の言葉や判断に“重み”が生まれると思っています。
よくある例えですが、親が子どもに「予習しろ」「復習しろ」と言っているのに、本人は帰ってビール飲んで野球を観てる…そんな構図、よく見かけますよね。
でもそれって、“知ってるけど、やってない”ってことなんです。
結局、結果を出せるかどうかは、やるかやらないか。たったそれだけ。
僕は、今後もずっと「やっている人間」でありたい。だから、手を動かし続けます。
動き続けること。それが、自分にとっての“行動哲学”です。
地方企業に必要な変化と、採用難を超えるリアル
これからの展望として、どんな未来を目指していますか?
藤井さん:株式会社ネクストリーは、今年で11期目に入りました。
10期目の売上は1億5,000万円。次に目指すのは、2030年、売上10億・社員20名体制です。そしてその先には、営業利益1億円という、明確な目標も掲げています。
なぜ“10億”なのか。
それは単なる数字の話ではなく、「1つの“形”」としての目標だからです。
僕にとって、売上10億というのは、企業としても人としても「ここまで来た」と胸を張れる水準。
そして、その目標に向かってみんなで同じ方向を向いて動ける、いわば“共通の旗”のようなものだと思っています。
現時点では社員8名。そこから毎年140%ペースで成長していかなければ届かない数字ですが、だからこそ意味がある。
高い目標を掲げるからこそ、日々の行動が変わる。小さな判断の積み重ねにも、指針が生まれるんです。
もうひとつ、僕がこの数字にこだわる理由があります。
それは、「自分が死んでも残る会社をつくりたい」という想い。
代表という立場は、人生の途中で“成り行き”で与えられたものでした。
でも今は、自分の人生の証として、この会社をちゃんと残せる形にしたいと心から思っています。
自分がいなくなっても、この会社が社員たちの居場所として、生き続けていけるように。そのためにも、成長し続けることは絶対に欠かせない。
今の延長線上に「10億」があるんじゃない。目指すべき未来として、あえてその場所を描いているんです。
“強みを磨け、自分の光はそこから見える”
若い世代へ、エールやメッセージをお願いします。
藤井さん:若い世代の皆さんに伝えたいのは、「自分の強みを磨いてほしい」ということです。
いま、多くの人が「やりたいことがない」とか、「働く目的が見つからない」と悩んでいると思います。でも、それって当たり前なんです。
僕だってそうでした。なぜこの仕事をやっているのか、最初は成り行きでしかなかった。
でも、やってみて、向き合って、少しずつ自分の軸ができてきたんです。
最近読んだ、マーケター・森岡毅さんの言葉が心に残っています。
「弱みを磨いても人並みにしかならない。強みを磨くことでしか飛び抜けられない」と。
僕もそう思います。誰かに合わせるのではなく、自分だけの強みを見つけて、それをとことん磨いていくこと。
そうすれば、必ず“光る場所”が見えてくる。だからまずは、“磨き始める”ことが大事なんだと思います。
うちの会社もまさにそうです。
最初は「なんでもできます」と手広くやろうとして失敗しました。
でも、たくさん試して、失敗して、自分たちの得意領域――「小規模排水」「工業系」に絞ったからこそ、今の成長があります。
強みにフォーカスすることで、ようやく全国から問い合わせをもらえるようになった。
だから、就職にしてもキャリアにしても、「ここで一生働かなきゃ」なんて思わなくていい。
うちで学んだことを次の場所で活かしてくれたら、それはとても嬉しい。
あなたのキャリアを支える“通過点”として、僕たちが存在できたら本望です。
まずは一歩踏み出してみること。そして、その中で「自分の強みは何か?」を問い続けてみてください。
知ってるだけじゃなく、できるだけでもなく、“やっているかどうか”が、すべてを変えます。
▽取材先企業情報▽
株式会社ネクストリー
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ライター:長谷川 泰我